不動産法律判例一覧(その2)
分譲マンション・管理編
01.マンション駐車場の専用使用権の消滅決議の効力
  • Aは、自己所有の地上にマンションを建築し、建物専有部分の区分所有権と敷地の共有持分を分譲したが、自らも一階店舗部分の区分所有権を取得し、サウナ、理髪店を営んでいました。Aが分譲時に他の区分所有者の了承を得て設定した規約には、本件マンションの外壁、屋上、敷地(駐車場を含む)についてA が無償の専用使用権を有する旨が規定されていました(いわゆる留保方式)。駐車場はAの店舗来客用として使用され、常時ふさがっており、外壁、屋上には店舗の大型看板が付設され、屋上にはサウナ用のクーリングタワーと水槽二個が置かれています。ところが、その後、区分所有者が管理組合を結成し、新たに規約を設定したうえ、新規規約に基づく集会決議において、Aの意向を無視してAの有する駐車場専用使用権の消滅。△修陵召Aの専用使用権の有料化(外壁につき月額○○円、屋上につき月額○○円の使用料)が決定されました、Aの承諾なしに行われた以上の決議は有効でしょうか?
  • 分譲マンションについて、一般区分所有者の有する駐車場等の専用使用権を消滅させたり、一部有料化する内容の規約設定や集会決議を行なうケースがよくみられます。こうした決議が区分所有法31条1項後段の「特別の影響」を及ぼす場合にあたり、Aの承諾を要するのではないかが問題となります。最高裁平10・11・20は次の通り判示しました。
判決内容

「(1)被上告人は、分譲当初から、本件マンションの一階店舗部分においてサウナ、理髪店等を営業しており、来客用及び自家用のため、南側駐車場及び南西側駐車場の専用使用権を取得したものであること、(2)南西側駐車場の専用使用権が消滅させられた場合、南側駐車場だけでは被上告人が営業活動を継続するのに支障を生ずる可能性がないとはいえないこと、(3)一方、被上告人以外の区分所有者は、駐車場及び自転車置場がないことを前提として本件マンションを購入したものであること等を考慮すると、被上告人が南西側駐車場の専用使用権を消滅させられることにより受ける不利益は、その受忍すべき限度を超えると認めるべきである。

したがって、消滅決議は被上告人の専用使用権に「特別の影響」を及ぼすものであって、被上告人の承諾のないままにされた消滅決議はその効力を有しない・・・・・。有償化決議については、従来無償とされてきた専用使用権を有償化し、専用使用権者に使用料を支払わせることは、一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、有償化の必要性及び合理性が認められ、かつ、設定された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は専用使用権の有償化を受忍すべきであり、そのような有償化決議は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである。

また、設定された使用料がそのままでは社会通念上相当な額とは認められない場合であっても、その範囲内の一定額をもって社会通念上相当な額と認めることができるときは、特段の事情がない限り、その限度で、有償化決議は、専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、専用使用権者の承諾を得ていなくても有効なものであるとするのが相当である。」

受忍限度論が持ち出され、消滅決議と有償化決議で運命が分かれることになりました。多くの類似のトラブル事例がありますが、今後、この最高裁判例に従った解決がなされることになるでしょう。

02.マンションの管理者が自己名義で預金したお金は誰のものか
  • 不動産業者A社の建築、販売したマンションの管理業務を行うため、子会社B社が設立され、区分所有権上の管理者となり、各区分所有者との間で管理委託契約を結び、管理業務を行っていました。B社は、マンション毎に、管理業務の受入口座としてB社名義の普通預金口座をC銀行に開設し、その残高が多額となった段階でB社名義の定期預金にして管理していました。なお、A社の銀行取引については、B社がその連帯保証人となっていました。A社とB社は取引銀行のC銀行に対する負債の担保に供するため、前記定期預金についてC銀行に質権設定を行いました。
    その後、管理組合は法人格を取得しました。A社とB社は、裁判所から破産宣告を受けました。C銀行はただちに質権を実行し、B社名義の定期預金の返還請求債権を取り立て、債務の弁済に充当してしまいました。管理組合法人は、C銀行から前記金員を取り戻すことができるでしょうか?
  • マンションの管理業務を行っている業者が、「管理者」として住人らから徴収した管理費等を業者名で預金するケースがよくみられます。業者がこれらの預金を自らの負債の担保に供したりすると銀行を巻き込み大混乱が発生します。管理者の預託したお金は誰のものなのか、管理組合が法人化した場合どうなるのか、問題は深刻です。設問類似の事例で東京高判平12・12・14は次の通り判示し、マンション住人の権利を擁護する判断を示しました。
判決内容

「区分所有者の管理費等の支払債務に対応する債権の帰属者はB社ではなく区分所有者団体であり、B社は、区分所有者団体の行う管理業務の執行者たる「管理者」として、区分所有者から送金されていた管理費等についてこれを管理する権限を与えられており、その管理の一環として、管理費等入金のための区分所有者団体の預金口座を開設する権限を与えられていたところ、当時、区分所有者団体は観念的には成立していても、実際には管理組合は結成されておらず、管理組合等の名義で口座を開設することは困難であったことなどから、区分所有者団体の預金口座とするために、団体の表示としてB社名義を用いて、銀行との間で普通預金契約を締結し、本件普通預金口座1、2を開設し、各区分所有者から各区分所有者団体に対する債務の履行としての管理費等の送金を受けたものというべきであり、したがってこれらの普通預金口座の預金者は各マンションの区分所有者団体であるというべきである。そして、普通預金の金額が一定の金額に達した場合に、これを定期預金に組替えることは、預金の管理方法としては当然許され、区分所有者団体もこれにつき黙示の承諾を与えていたものと解すべきであり、したがって、B社が本件普通預金口座1、2において保管中の各預金を定期預金に組替えたとしても、その預金者が各マンションの区分所有者団体であることには何ら変更はないと解すべきである。

以上によれば、本件各マンションの区分所有者団体は、本件定期預金について、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、「管理者」たる B社を代理人として銀行との間で預金契約をしたものであり、本件定期預金の預金者であると解される。」

結局、銀行の注意義務違反を認定し、質権設定の効力を認めませんでした。従来の銀行実務からすると厳しい判決といわざるを得ないのですが、マンション購入者保護、消費者保護の見地からはやむを得ない判決と思われます。

03.ピッキング盗とビルの管理責任
  • ピッキング被害が多発している中で、当社のビルの2Fのテナントの事務所がやられてしまいました。被害にあった借主から、ビルが事務所入口の鍵をピッキング被害にあいにくい鍵に交換していなかったのが悪いとして、盗難被害の弁債を求められています。当ビルは通常のキーのダブルロック方式を採用しており、ビル内の盗難による被害については貸主は責任を負わないとの特約を契約書にうたっております。ビルとして管理責任を問われるケースなのでしょうか?
  • 首都圏での不良外国人グループによるピッキング盗の被害が激増しております。ビル側は賃貸借契約に伴う管理義務を負担しておりますが、事務所入口の鍵をピッキングにあいにくい鍵に交換し、被害防止策を講じる義務まで負担しているのでしょうか。こうした興味深い事例についての最近の判例(東京地判14・8・26)があり、次のように判示しています。
判決内容

「そもそも、賃貸借契約において、賃貸人の負うべき本来的義務は、賃貸物件を使用、収益させる義務、賃貸物件の使用収益に必要な修繕を行う義務の外、担保責任及び費用償還義務であって、原告の主張するような賃借人所有財産を盗難等から保護することを内容とする管理義務は、賃貸借契約から当然に導かれるものではなく、特約や信義則上の付随義務として認められる余地のあるものと解するのが相当である。そして、賃貸人がこのような管理義務を負う場合にどの程度の義務を負うかは、個々の賃貸借契約の事情に応じて判断されるべきである。これを本件賃貸借契約についてみてみるに、)①本件全証拠を検討するも、原告と被告が貸室の防犯について特段の合意をしたとは認められないこと②本件賃貸借契約においては、「地震、火災、水害等の災害、盗難、その他甲の責めに帰することのできない事由によって乙の蒙った損害に対しては、甲はその責を負わないものとする」(第11条)とされ、盗難による損害は被告の免責の対象とされていること・・・・③本件事務所入口の扉はダブルロックであり、一応の防犯効果が期待できたこと・・・・等の事情に鑑みれば、被告は、原告に対し、既存の鍵を維持管理すること以上に原告の盗難被害を防ぐべき義務は負っていないと解するのが相当である。・・・・被告が、原告に対し、ピッキング被害防止策を講じ、あるいは盗難被害を報告すべき義務を負っていたということはできず、被告に債務不履行責任は認められない。」

ご質問のケースもビル側の管理義務違反はなかったものと思われます。しかし、防犯の観点から、鍵は最新のものに取りかえられた方がよいと思います。将来、被害の拡大により既存のキーが時代遅れになったような場合、逆の結論が導き出される可能性があります。

04.区分所有建物の管理費の消滅時効
  • マンション管理組合の理事をしておりますが、長期間にわたり管理費を滞納している区分所有者がおり苦慮しております。このまま手続をとらずに放置しておいたら時効消滅してしまうとの指導を受けたのですが、この場合の時効期間は何年なのか教えて下さい。
  • 昨今、管理費を滞納する無責任な区分所有者が著しく増加しており、社会問題になっております。支払命令の申立や訴訟の提起により早期に解決すればよいのですが、多くのマンションではそのまま放置されております。将来、抵当権者の競売申立により、競売人が滞納分の支払義務を承継するのだからそれまで待とうといった思惑も伺えます。
    さて、こうした管理費の時効は何年なのでしょうか。民法167条1項は、「債権ハ十年間之ヲ行ハザルニ困リテ消滅ス」と定めております。又民法169条は「年又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル金銭其他ノ物ノ給付ヲ目的トスル債権ハ5年間之ヲ行ハザルニ困リテ消滅ス」と定めております。
    これは定期給付債権の短期消滅時効という制度であり、これに該当するものとしては、賃料、利息、年金、扶養料があげられます。いずれも基本的たる定期金債権から生じたものであり、基本権に基づくものではない場合にはこの条文の適用はありません。5年説(東京高判平14・6・12)と10年説(東京地判平9・8・29)が対立しておりましたが、近時、最判平16・4・23は次の通り判示し、この論争に終止符がうたれました。
判決内容

「本件の管理費等の債権は、前記のとおり、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法169条所定の債権に当たるものというべきである。その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い、総会の決議により増減することがあるとしても、そのことは、上記の結論を左右するものではない。」

5年という期間は、またたくまにやってきますので注意して下さい。時効にかけてしまった場合、理事の責任を問うというケースも出てきておりますので気をつけましょう。

05.エレベーター保守管理契約の中途解約
  • マンション管理組合の理事長ですが、エレベーター保守会社との間の保守管理契約を、契約期間中なのですが90日間の猶予期間を置いて解除しました。契約書には違約金の定めがなかったのですが、保守会社は、不利な時期に契約解除されたので、残存期間の報酬分を払えといってきました。応じなければならないのでしょうか?
  • 本件のエレベーターの保守管理契約は、期間の定めのある有償の準委任契約と考えられます。この場合、民法651条2項が適用され、相手方にとって「不利なる時期」に契約解除したときは損害賠償義務が発生します。不利なる時期の契約解除なのかどうかが問題です。東京地判平15・5・21は次の通り判示しました。
判決内容

「本件契約の内容は、・・・認定のとおりであり、その性質は、期間の定めのある有償の準委任契約と解され、したがって、本件契約には、民法656条により、民法の委任契約に関する規定が準用される。そして、民法656条が準用する651条2項本文は、「当事者の一方が相手方のために不利なる時期に於て委任を解除したるときは其の損害を賠償することを要す」と規定しているところ、本条項の「不利なる時期」とは、その委任の内容である事務処理自体に関して受任者が不利益を被るべき時期をいい、したがって、事務処理とは別の報酬の喪失の場合は含まれないものと解される(最判昭和43年9月3日第3小法廷判決参照)。

そして、本件において、原告が主張する本件解約に伴って発生した不利益は、事務処理とは別の報酬の喪失に他ならず、報酬は原告が月々のエレベーター保守管理サービスを行うことによって発生するものであること、本件解約によって原告において従業員の配置を見直したり従業員を解雇したなどといった事情を認めるに足りる証拠はなく、被告が90日間の猶予をもって本件解約通知を行っていることからすると、本件解約は「不利な時期」においてなされた場合に当たらないものと認めるのが相当である。」

ご質問のケースも支払いの必要はないものと思われます。なお、違約金の定めが明確になされている場合は、その金額の相当性等が考慮されることになり、別の考え方で判断されることになりますので注意して下さい。

06.マンション駐車場の使用細則は規約にあたるか
  • マンションの共用部分の駐車場をめぐって、希望者の間でもめております。駐車場の使用細則を作ろうということになったのですが、集会での決議方法について教えてください。
  • マンションの附帯施設として共用部分の駐車場がある場合、駐車区画が少ないために、よくトラブルが発生します。そこで駐車場の使用細則を作ろうということになり、集会で決められることになるわけですが、その決議方法が問題となります。駐車場使用細則が区分所有法第31条1項に定める規約にあたるとすると、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による特別決議を要することになり、一方細則は区分所有法18条の「共用部分の管理に関する事項」だとすると、集会の普通決議でよいことになります。この点につき那覇地判平成16・3・25は次の通り判示しました。
判決内容

「本件駐車場の使用、管理に関する事項について規定する本件細則が、区分所有法30条一項及び31条1項にいう「規約」にあたるのかという点についても、その規定事項が同法18条にいう「管理」の範囲内にあるか、これを超えるのかという観点から決するべきであり、さらに、その点を判断する際には、単に形式的に、その規定文言のみに基づき判断するものではなく、その規定が設けられた経緯、趣旨をも踏まえて、その規定の意味合いを実質的に勘案して判断する必要があるというべきであって、例えば、その規定内容が共用部分としての性質に反し、あるいはその性質を変更するような使用態様を規定するもの、すなわち、・・・特定の区分所有者に半永続的な専用使用権を与えるようなものであれば、当該規定内容は、もはや「管理」の範囲を超えるものであって、「規約」事項にあたるといわなければならない。」そのうえで、本件細則は、特定の区分所有者の優先的な使用態勢を維持存続する内容となっており、「規約」により定めるべきと判示しました。

07.マンション住戸の使用差止請求と権利の濫用
  • マンション居室で治療院をしておりますが、管理組合から使用差止請求がなされました。他の多くの人も事務所使用を大々的に行ない規約違反をしているのに、私だけがねらい撃ちされました。こんな理不尽な請求が認められるのでしょうか?
  • マンション居室をカイロプラクティック治療院として使用していたケースで、管理組合が規約違反として使用差止めを求めました。しかしこのマンションでは、住戸部分の事務所使用が大規模に行われ長年にわたり放置されてきたという経緯があり、管理組合の請求は権利の濫用にあたるのではないかが問題となった事例があります。
判決内容

東京地判平17・6・23は、「本件治療院の使用態様は、その規模、予想される出入りの人数、営業時間、周囲の環境等を考慮すると、事業・営業等に関する事務を取り扱うところである『事務所』としての使用態様よりも、居住者の生活の平穏を損なう恐れが高いものといわざるを得ず、到底住戸使用ということはできない」として、規約に違反するものと認め、区分所有法57条1項、6条1項の区分所有者の共同の利益に反する行為であるとしたが、「原告が住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し、かつ、現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら、他方で、事務所と治療院とは使用様態が多少異なるとはいえ、特に合理的な理由もなく、しかも、多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により、被告A及びBに対して、治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は、クリーン・ハンズの原則に反し、権利の濫用といわざる得ない。」と判示し、管理組合の使用差止請求を棄却しました。

08.マンションの居室の託児所使用
  • マンション管理組合ですが、区分所有者が無認可託児所を経営しており、子供の泣き声による騒音、不特定多数の者の出入り、非常時の避難の困難さ等、居住用マンションとしての住環境を悪化させております。使用禁止請求ができないでしょうか?
  • 区分所有法57条1項は、区分所有者がその共同の利益に反する行為をした場合、管理組合はその行為の停止を請求することができると定めております。託児所としての使用について近時、東京地判平18・3・30は次の通り判示しました。
判決内容

「本来居住目的とされている502号室において本件託児所を営業することは、他の区分所有者に対して一方的に深刻な騒音等の被害を及ぼしながら、被告Aらは原告からの働きかけに対して真摯に具体的な改善策を提示することもせず、あまつさえサミット乱入事件をはじめ警察官の臨場を招くような事態を引き起こして居住者の不安を招き、近時にはある程度の改善はみられるものの、いまだ十分とはいえないものであり、何よりも被告らの利益のために本件マンションの居住者が一方的な犠牲を強いられて居住用マンションとしての居住環境を損なわれることは相当でないことは明らかであり、さらに、火災等の災害時には生命身体への危険も考えられなくもないのであって、こうした状態をもたらした本件託児所の経営は、区分所有法6条1項に規定する『区分所有者の共同の利益に反する行為』であるというべきである。」被告は他にもギター教室や事務所使用があり、被告のみに対する請求は権利の濫用であると主張しましたが、この点につき「これらの中には、すでに廃業していたり、わずかな来訪者しかないものもあるなど、区分所有者の共同の利益に反する行為という観点からすれば、多数の苦情が寄せられて問題視されてきた本件託児所とは比較にならないものであるから、これら事業所として使用していると思われる居住者との比較において、被告らに対する本件請求が権利の濫用であるとは評価できない。」と判示しました。

09.管理組合による事務管理の成立
  • マンション管理組合が、共用部分である駐車場躯体部分のコンクリート劣化抑制工事を実施した際、躯体と構造上一体を有す住民が区分所有権を有する駐車場の壁面にも塗装工事を行いました。本件工事による有益費用を区分所有者に求めたいと思いますが、認められますか?
  • マンションの修繕に際し、管理組合が共用部分だけでなく専有部分についても工事を施工する場合があります。区分所有者のために不利であったり、その意見に反することが明らかになった場合は別として、事務管理が成立する可能性が高く、有益費償還請求権が問題となります。
    本問類似の事案で、東京地判平16・11・25は次の通り判示しました。
判決内容

「ある者が、義務なくして、本人のために事務の管理を始めた場合には、それが、本人のために不利なこと又は本人の意思に反することが初めから明らかな場合を除き、事務管理が成立するものというべきである。・・・・本件工事に含まれる本件駐車場壁面の塗装工事は、共用部分である躯体部分のコンクリート劣化を抑制する効果が高いだけでなく、被告が所有する専有部分である本件駐車場の壁面を改修、美化するものであり、その照度を上げることによって、防犯管理にも資するものということができ、原告は、壁面塗装工事が上記のような効果を有することから、A工法による本件工事を実施したものというべきである。したがって、本件工事のうち、壁面塗装工事の実施は、原告が管理する共用部分である躯体部分のコンクリートの劣化を抑制するという原告の事務の一面を有するとともに、被告が所有する本件駐車場の壁面を塗装し、これを改修、美化するという一面をも有し、その限りにおいて、原告は、被告のための事務を行ったものということができる。」

結局、有益費用として56万円の支払を区分所有者に命じました。

10.売れ残りマンションの値引き販売
  • 総戸数200戸の新築マンションを購入し4年がたちましたが、販売会社は売れ残ったマンション70戸を、当初分譲価格を46パーセント下回る価格で値下販売しました。このようなやり方は、先に購入したわれわれに対する不法行為となると思うのですが、いかがでしょう?
  • 分譲マンションの値下販売を巡っては多くの訴訟が提起されており、不法行為責任の成否が争点となっております。近時、大阪高判平19.4.13は、ご質問と類似するケースにつき、次の通り判示し、一審では否定された不法行為責任を肯定しました。
判決内容

「本件のような分譲マンションの特性、Aの性格及び本件売買契約の特性等を総合考慮すると、Aには、本件マンションを含む分譲マンション等の売残住戸が生じた場合、完売を急ぐあまり、市場価格の下限を相当下回る廉価でこれを販売すると当該マンション等の既購入者らに対し、その有する住戸の評価を市場価格よりも一層低下させるなど、既購入者らに損害を被らせるおそれがあるから、信義則上、そのような事態を避けるため、適正な譲渡価格を設定して販売を実施すべき義務がある。そして、売残住戸の販売を急ぐあまり、分譲開始から4年後に、市場価格の下限を10パーセント以上下回る価格で本件値下販売をし、著しく適正を欠く譲渡価格で本件マンションを販売したのであるから、Aには、上記信義則上の義務に違反しており、それは、不法行為を構成する。」なお、再販価格については、坪単価が下落した点を考慮するとしても、当初分譲価格の24ないし30パーセントを下回る価格とするのが相当だったとしております。そのうえで損害賠償の算定については、「本件値下販売により、本件マンションの住戸価格が一時的に値下がりしたとしても、これが将来にわたって続くものとは言い難いから、Bら主張の経済的損害が発生したとは認められない。しかし、Bらは、一時的には、その購入した住戸の価格を本来の市場価格以下に低下させられ、多大な精神的苦痛を被ったと推認することができ、その苦痛に対する慰謝料は、1戸当たり100万円が相当である。」との判断を示しました。

11.マンション売買における違約金特約
  • 新築マンションを3640万円で購入する契約を締結し、手付金200万円を支払いました。残金支払の予定が狂い、売主から催告され契約解除されてしまいました。違約金の定めに従い、2割相当額から手付金を控除した残金528万円の支払いを求められています。物件は契約解除後すぐに他に売却され、売主の損は軽微と聞いております。私は、こんな大金を払わなければならないのでしょうか?
  • 不動産売買における違約金特約は、損害賠償の予定と推定され、裁判所はその額を増減することはできないとされております(民法420条)。しかし、違約金特約の金額が不当に過大であるときには、信義誠実の原則により、一部を無効とし、減額修正することが考えられます。
判決内容

近時、福岡高裁平20・3・28は類似の事案において、次の通り判示しました。「しかしながら、約定の内容が当事者にとって著しく苛酷であったり、約定の損害賠償の額が不当に過大であるなどの事情のあるときは、公序良俗に反するものとして、その効力が否定されることがあり、また、公序良俗に反するとまではいえないとしても、約定の内容、約定がされるに至った経緯等の具体的な事情に照らし、約定の効力をそのまま認めることが不当であるときは、信義誠実の原則により、その約定の一部を無効とし、その額を減額することができるものと解するのが相当である。・・・本件建物は、解除の効力が生じて一か月も経たないうちに売却され、しかも、本件マンションの他の物件と比較しても早期に売却されたものということができる。そうすると、控訴人の違約により、被控訴人に損害が生じたとしても、その程度は比較的軽微なものと推認すべきところ、本件違約金特約が全面的に有効であるとすれば、違約金の額は738万円にものぼることになる」

結局、判決は、本件のケースにおいては、違約金として請求できるのは、手付金200万円と、これに加え200万円にすぎないと判示しました。

12.マンション販売業者による眺望の阻害
  • マンションの上層階を購入しましたが、同じ販売業者が近接地にマンションを建設販売し、眺望が阻害されました。苦情を述べたところ、不動産売買契約書や重要事項説明書の特記事項に、「将来本マンション隣接地および周辺に中高層建築物が建設される場合があること、その場合、本マンションの眺望、日照条件、交通量に変化が生ずる場合があること等、周辺環境を充分調査確認のうえこの契約を締結し、以後この環境について売主および関係者らに対し、何ら異議を申し立てないこと」と記載されていることを理由に交渉を拒絶されました。損害賠償請求は難しいのでしょうか。
  • 購入したマンションからの眺望が阻害されたことによる損害賠償の事例が増えておりますが、ご質問のような同一業者による近接地へのマンション建設の事例につき、近時、大阪地判平20・6・25は次の通り判示しました。
判決内容

「眺望利益は、特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値をもち、このような眺望利益の享受を一つの重要な目的としてその場所に建物が建築された場合のように、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合に限って、法的に保護される権利となるものと考えられる。」と判示し、本件の眺望利益は法的保護に値するものではないとしたうえで、「被告Aにおいて、本件売買契約締結に先立ち、本件敷地に中高層建築物が建築されて眺望に変化が生じる可能性があることを十分に説明していた事実が認められる。被告Aにおいて、本件敷地に原告らの眺望を阻害するような高層マンションが建つ可能性を説明せず、逆に、将来的にもそうした事態は生じないであろうと保証し、あるいはそのような信頼を与えるかのような言動を用いて本件売買契約を締結した(その結果、原告らにおいて将来的にも良好な眺望が保証されるものと誤信して本件売買契約を締結した)という事実は認められない。そうすると、上記のような被告Aの説明義務違反ないし虚偽説明を前提として、被告らが原告らの眺望利益を違法に侵害した旨の原告らの主張は、その余の点を検討するまでもなく、失当である。」と結論づけました。 マンション購入者にとってきびしい判断が下されたわけですが、消費者保護の点で問題ありとする見解も有力であり、控訴審の判断が待たれるところです。

13.購入した中古マンション1階に暴力団組員
  • 中古マンションを購入しましたが、1階に暴力団組員が住人としており、長期間の管理費の滞納をしており、様々な迷惑行為をくり返しています。祭礼の日などは、仲間の組員が200人近く集まり、深夜まで大騒ぎをしております。売主はこの点について何も言いませんでした。売主に対し瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めようと思いますが、認められますか?
  • 民法570条の「瑕疵」には、物理的欠陥のみではなく、いわゆる心理的欠陥も含まれると解されています。マンションは継続的に生活する場であることから、売買契約時において、平穏な生活を乱すべき環境にあることを買主が気づかなかった場合、いわゆるマンションの「隠れたる瑕疵」として売主に対する契約解除や損害賠償請求が可能となるのではないかが問題となります。
    近時、類似の事案につき東京地判平9・7・7は次の通り判示しました。
判決内容

「ところで、民法570条にいう瑕疵とは、客観的に目的物が通常有すべき設備を有しない等の物理的欠陥が存する場合のみならず、目的物の通常の用途に照らしその使用の際に心理的に十全な使用を妨げられるという欠陥、すなわち心理的欠陥も含むものであるところ、建物は継続的に生活する場であるから、その居住環境として通常人にとって平穏な生活を乱すべき環境が売買契約時において当該目的物に一時的ではない属性として備わっている場合には、同条にいう瑕疵にあたるものというべきである。

本件マンションは、暴力団員である訴外丁が新築当時から敷地と等価交換により居住しはじめ、同人所属の暴力団組員を多数出入りさせ、更に夏には深夜にわたり大騒ぎし、管理費用を長期間にわたって滞納する等、通常人にとって明らかに住み心地の良さを欠く状態に至っているものと認められ、右状態は、管理組合の努力によっても現在までに解消されていないことに加え、本件売買契約締結前の経緯に照らし、右事情はもはや一時的な状態とはいえないから、本件事情は本件不動産の瑕疵であると認められる。被告Aは、本件売買契約締結交渉の際、原告らから本件マンションの住人について尋ねられた際、よく分からないと答えている。原告らは、本件マンション入口付近の私物化等について、現地見聞の際に気づいたものと推認されるが、訴外丁が暴力団員であること及び夏祭りの際の集会等は、一般人に通常要求される調査では容易に発見することができず、一定期間居住してみて初めて分かることであるから、右事情については、本件売買契約当時に原告らにおいて知り得なかったものと認められる。したがって本件事情は、本件不動産の隠れたる瑕疵にあたる。」

結局、契約解除は認めませんでしたが、瑕疵による損害として価格の下落分金350万円の賠償を認めました。

14.欠陥マンションと慰謝料請求
  • 新築マンションの1階部分を購入しましたが、毎年のように浸水被害が発生し、十分な浸水対策をとっていない瑕疵があり、修復不能の状況です。
    担当者は、売買契約前に浸水対策の不備に気づいていたと告白しました。私は瑕疵担保責任による売買契約解除を求めたいのですが、慰謝料も請求したいと思います。可能でしょうか?
  • 状況からみて契約解除が認められる可能性が高いと思われます。問題は慰謝料です。瑕疵担保責任における損害賠償の範囲については見解の分かれるところですが、信頼利益か履行利益かという分け方ではなく、当事者間の公平という視点から慰謝料まで認めるべきケースなのかを判断すべきです。
    類似の事案につき、東京地判平15・4・10は次のとおり判示しました。
判決内容

「原告らは、その購入した本件各室に浸水被害対策が不十分であったという本件瑕疵がある結果、本件浸水被害を受け、本来であれば必要のない浸水対策に負われ、かつ、瑕疵ある建物を転売することも困難であったため、本件各室に居住し続けたが、最終的には、本件売買契約を解除して、生活の本拠とした本件各室を失うという事態に至ったことなどによって、精神的に多大の打撃を受けたことが窺われる。そして、被告Aにおいて、既に認定したとおり、本件マンションに本件瑕疵があることを知りながら、・・・・原告らに対し、本件売買契約の締結前後に、本件瑕疵を知らせていなかったことが認められ、そのような被告Aの対応は、原告らに対する説明義務違反の債務不履行ないし不法行為をも構成するものであったといわざるを得ない。このような場合には、瑕疵担保責任に基づく損害賠償においても、慰謝料の支払を求めることができるというべきであるが、本件瑕疵の内容、これに対する上記した被告Aの対応、本件売買契約の解除が認められて原状回復として売買代金相当額の返還を受けられること、その他、本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると、原告らの受けた精神的損害に対する慰謝料としては、各100万円をもって相当と認める。」

本件では、訴訟の提起・進行のために支出した金銭についても損害賠償義務を認めました。

15.分譲業者が眺望を阻害する建物建築
  • 居室から隅田川花火大会の花火の観望ができるので、取引先の接待に使おうと思い新築マンションを購入しました。購入の理由を分譲業者は十分知っていたのに、その翌年から通りをはさんだ向かい側に新築マンションを建築したため、花火は見えなくなってしまいました。業者に対し損害賠償を求めたいのですが、認められますか?
  • 売主である分譲業者が販売後に自ら眺望を阻害するマンションを建築したというケースであり、当初の購入者に対し、花火の観望を妨げないように配慮すべき信義則上の義務があったかどうかが問題となります。東京地判平18・12・8は、類似のケースについて次の通り判示しました。
判決内容

「原告A子らが604号室からの隅田川花火大会の花火の観望という価値を重視し、これを取引先の接待にも使えると考えて同室を購入し、被告においてもこれを知っていたこと、・・・・隅田川花火大会を巡る状況からみてこれを室内から観賞できるということは、取引先の接待という観点からみると少なからぬ価値を有していたと認められることを考慮すると、被告は、原告花子らに対し、信義則上、604号室からの花火の観望を妨げないよう配慮すべき義務を負っていたと解するべきである・・・・被告は・・・・原告A子らに604号室を販売し、引き渡した翌年からプライトコートの建築に着手し、平成17年2月には同室から花火が見えない状態にしてしまった。そのため、原告A子らは、平成16年夏の隅田川花火大会の花火は建築用のクレーン越しに上がる花火を同室から見ることができたものの・・・・翌年からはこれを見ることができなくなってしまったのであり、被告のプライトコートの建築は、上記の信義則上の義務に違反するものといえる。したがって、被告は、これによって原告花子らに生じた損害の賠償をしなければならない。」

結局、共有部分を有する原告二人に対し、合計66万円の慰謝料を支払うよう命じました。なお、財産的損害の賠償(財産価値の下落分)については認めませんでした。

16.瑕疵担保責任と不法行為責任の関係
  • 新築マンションを購入したのですが、建物に多数の瑕疵があり、建築会社が設計図書で決められた強度に達しない施工をしております。
    建設会社に責任追及したいと思いますが、瑕疵担保責任だけでなく不法行為責任も追及したいのですが、可能でしょうか?
  • 新築マンションの購入者は、建築の注文者が建築会社に対して有している瑕疵担保責任履行請求権が購入者に譲渡されることにより、建築会社への瑕疵担保責任追求が可能になると考えられています。不法行為責任の場合には、20年間の除斥期間がありますので、瑕疵担保責任が比較的早期に消滅してしまった後にも追及が可能であり、購入者の救済がはかられることになります。では、建築会社に対し、瑕疵担保責任をこえて、不法行為責任を追及できるのは、どのような場合なのでしょうか。
判決内容

この点につき、福岡高判平16・12.16は、「請負の目的物に瑕疵があるからといって、当然に不法行為の成立が問題になるわけではなく、その違法性が強度である場合、例えば、請負人が注文者等の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵ある目的物を製作した場合や、瑕疵の内容が反社会性あるいは反論理性を帯びる場合、瑕疵の程度・内容が重大で、目的物の存在自体が社会に危険な状態である場合等に限って、不法行為責任が成立する余地が出てくるものというべきである。」と判示しました。

例えば、建設会社が、設計で定められた強度に達しない施工をしているような場合、建物の耐久性に支障が生じない程度の強度が維持されていた場合には、瑕疵担保責任によって補強工事代を請求すべきであり、不法行為責任の追及は無理ということになります。建物の耐久性に支障ある事態に至っている場合には、建物の存立自体が危ぶまれ社会公共的にみて大いに問題ですので、不法行為責任の追及が可能になります。

17.耐震偽装マンションの購入と錯誤無効
  • 新築マンションを購入しましたが、マンションの耐震強度に偽装の疑いがあることが発覚し、分譲業者が調査したところ、一階Y方向の保有水平耐力指数が0.86と法定の基準を下回っていることが判明しました。業者側から耐震補強工事が提案されましたが、区分所有者の半分が反対し、実施されておりません。私としては、売買代金を取り戻したいのですが、可能でしょうか。
  • 構造計算書に偽装があり、マンションの耐震強度に疑いのある事例が相次ぎました。このようなケースにおける買主たる消費者の救済は、いかなる理論構成において可能かが問われます。
    近時、札幌地判平22・4・22は、次の通り判示しました。
判決内容

「マンションの販売においては、立地条件、外観、設備の充実度などがセールスポイントとして宣伝されることが多く、それとの比較でいうと、比較的地味な住宅の基本的性能(防火・耐火性能、防音・遮音性能、耐水性能、耐震強度など)がセールスポイントとして強調されたり宣伝されたりすることは少ない。・・・しかし、そのことは、マンションの住宅の売買において、立地条件等が買受けの動機付けとして重要であり、基本的性能が重要ではないことを意味しない。ことは逆であり、基本的性能の方が重要であるが故に建築基準法令により最低限の性能の具備が義務付けられており、そのことを大前提として売買がされるが故に、立地条件等の方こそが住宅の個性化・差別化を図る要因として宣伝される現象が生じるにすぎないのである。したがって、本件各売買契約においては、売主である被告は、建築基準法令所定の基本的性能が具備された建物である事実を当然の大前提として販売価格を決定し、販売活動を行い、原告らもその事実を当然の大前提として販売価格の妥当性を吟味し分譲物件を買い受けたことに疑いはない。そうすると、本件各売買契約においては、客観的には耐震偽装がされた建物の引渡しが予定されていたのに、売主も買主も、これが建築基準法令所定の基本的性能が具備された建物であるとの誤解に基づき売買を合意したことになり、売買目的物の性状に関する錯誤(いわゆる動機に関する錯誤)があったことになる。」 結局、錯誤無効により不当利得の返還として売買代金の返還が認められました。同種事例の今後の判例の動向を見守りたいと思います。

18.マンションの規約共用部分を取得した者
  • マンションを建築分譲したAは、洗濯室、倉庫等の規約共有部分をA名義のままとし、共用部分としての登記をしておりませんでした。今回、Bがこの部分を競落し、登記簿上の用途を居宅事務所に変更してしまいました。管理組合はこの部分を洗濯室、倉庫として管理してきましたし、競売の資料にも、使用状況は明確に記載されていました。管理組合として、Bに対し、この部分が規約共用部分であることを主張できるのでしょうか。
  • マンションは、専有部分と共用部分に分けられ、共用部分は、さらに法定共用部分と規約共用部分に分けられます。法定共用部分とは、廊下、階段、エレベーター、機械室等をいい、規約共用部分とは管理人室、集会場等をいいます。規約共用部分については、その旨の登記をしなければ、第三者に対抗することはできません。本件のように、規約共用部分としての登記がされていなかったため、第三者に競落され、用途変更登記をされてしまった場合、管理組合はこの競落人に対抗できるのかが問題となります。
    近時、東京高裁平21・8・6は、競落人からさらにその姉名義に登記移転されたケースにつき、次の通り判示しました。
判決内容

「参加人は、本件洗濯室及び本件倉庫が本件マンションの区分所有者の共用に供されている現状を認識しながら、あえてこれを低価格となる競売手続により買い受け、本件洗濯室及び本件倉庫について共用部分である旨の登記がないことを奇貨として、時を移さず登記を「洗濯室」「倉庫」から「居宅事務所」「事務所」に変更するなどして控訴人による共用部分の主張を封ずる手立てを講じたものであり、これら一連の事実関係からすると、参加人は、控訴人に対し、規約共用部分について登記がないことを主張することを許されない背信的悪意の第三者というべきである。被控訴人は、参加人の代表者の姉であり、本訴においても参加人に従属する訴訟行動をしていることからみても、参加人の依頼により、控訴人の権利主張をより困難にするために、本件洗濯室及び本件倉庫の移転登記を受けたものであり、参加人の背信的悪意を承継した者というべきである。」

この判例の趣旨からすると、本件の場合、管理組合は登記がなくても背信的悪意者である競落人に対抗できることになります。

19.非居住組合員に対する住民活動協力金の負担
  • マンション管理組合の総会決議により、自己の専有部分に居住しない組合員に、組合費に加えて月額2500円の住民活動協力金を負担すべきとの規約変更が行われたのですが、非居住組合員の承諾を得ないと無効だとの意見があるのですが本当ですか。
  • 区分所有法31条1項前段は、規約の設定、変更又は廃止は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議によってすると定め、同項後段は、この場合において、規約の変更等が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならないと定めています。「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性と、一部の区分所有者がこれによって受ける不利益とを比較衡量し、区分所有者が受忍すべき限度を超える不利益を受けると認められる場合がこれに該当すると解されています。
    近時、最高判平22・1・26は、設問の問題点につき、次の通り判示(要旨)しました。
判決内容

「団地建物所有者全員で構成されるマンション管理組合の総会決議により行われた自ら専有部分に居住しない組合員が組合費に加えて月額2500円の住民活動協力金を負担すべきものとする旨の規約の変更は、次の(1)~(4)など判示の事情に下においては、建物の区分所有等に関する法律66条、31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に当たらない。
(1)当該マンションは区分所有建物4棟総戸数868戸と規模が大きく、その保守管理や良好な住環境の維持には管理組合等の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠である。
(2)当該マンションにおいては自ら専有部分に居住しない組合員が所有する専有部分が約170戸ないし180戸となり、それらの者は、管理組合の役員になる義務を免れるなど管理組合等の活動につき貢献をしない一方で、その余の組合員の貢献によって維持される良好な住環境等の利益を享受している。
(3)上記規約の変更は、上記(2)の不公平を是正しようとしたものであり、これにより自ら専有部分に居住しない組合員が負う金銭的負担は、その余の組合員が負う金銭的負担の約15%増しとなるにすぎない。
(4)自ら専有部分に居住しない組合員のうち住民活動協力金の支払を拒んでいるのはごく一部の者にすぎない。」

ケースを限定しているとはいうものの、同様の事案につき明確な方向性が示されたものといえます。

20.管理組合の役員をひぼう中傷する行為
  • マンションの区分所有者が、業務執行を行っている管理組合の役員らをひぼう中傷する文書を配布しております。このような行為は区分所有法6条1項の「区分所有者の共同利益に反する行為」にあたり、法57条に基づく差止め請求が可能と思うのですがいかがでしょう。
  • 問題の行為は、騒音、悪臭発生のように建物管理や使用に関するものではなく、被害を受けた者が各自差止請求や損害賠償請求をすれば足りるから、区分所有法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」にあたらないし、法57条による差止請求の対象ともならないとの考え方があります。
    しかし、近時、最判平24・1・17は、1,2審のとったこうした考え方を否定し、次の通り判示しました。
判決内容

「法57条に基づく差止め等の請求については、マンション内部の不正を指摘し是正を求める者の言動を多数の名において封じるなど、少数者の言動の自由を必要以上に制約することにならないよう、その要件を満たしているか否かを判断するに当たって慎重な配慮が必要であるということはいうまでもないものの、マンションの区分所有者、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどする行為は、それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地があるというべきである。」

同様の被害に苦しんでいる管理組合の役員の苦情相談が年々増えております。管理組合の運営に大きな影響を与える判決といえます。

21.住居専用規約と税理士事務所使用
  • 規約に、住居専用規定のあるマンションですが、一住戸が税理士事務所として使用されています。税理士は、規定は定文化しており、規範性がない等と主張しています。規約に基づき税理士事務所としての使用禁止を求めたいのですが、認められますか。
  • 区分所有者は建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならず、これに違反した場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人がその行為の停止等を求めることができます(区分所有法6条1項、57条)。住居専用規定に違反した場合でも、使用禁止請求が認められない場合があります。多数の用途違反があるのを放置しているような場合です。規範性の欠如があったか否かが問われるのですが、近時、東京高裁平23・11・24は類似の事案につき、次の通り判示しました。
判決内容

「前記認定事実によれば、昭和58年に住居専用規定が設けられた当時、本件マンションの2階以上の階において、皮膚科医院及び歯科医院として使用されていた区分所有建物が各1戸あったが、いずれも遅くとも平成6年ころまでに業務を廃止し、住居として使用されるに至っていることが認められる。住居専用規定が設けられて以降、控訴人は、新たに本件マンションの区分所有権を取得した者に対し、本件管理規約の写しを交付してその周知を図り、住居専用規定に反すると考えられる使用方法がある場合には、住居専用規定に反する使用方法とならないよう努め、被控訴人が税理士事務所としての使用を継続して、住居専用規定の効力を争っているのを除き、順次住居専用規定に沿った使用方法になるよう使用方法が変化してきていることが認められる。上記認定事実に照らせば、住居専用規定が被控訴人主張のように規範性を欠如しているものとは認めがたい。」

結局、共同の利益に反することも肯定され、使用禁止が認められました。

22.インターネット利用費一律負担の規約の効力
  • 私の住むマンションには、インターネット専用回線やネットワークなどの設備が備えられており、管理規約で、インターネット利用の有無にかかわらず利用料金の支払いを一律に負担すると定められています。インターネットを利用してない私としては、区分所有者間の利害の衡平が図られておらず規約の定めは無効だと思うのですが、いかがでしょう。
  • マンション管理や使用に関する事項は規約で定めることができ、管理費の負担内容については規約で定められております。本件のようなインターネット利用料金の一律負担については、利用していない区分所有者にとっては納得できないところでしょう。多くの相談が寄せられています。
    近時、広島地判平24・11・14は、次の通り判示しています。
判決内容

「本件インターネットサービスに係る物理的なLAN配線機器等のインターネット設備そのものは、本件マンションの区分所有者の共用部分であるということができるから、その保守、管理に要する費用は、本件マンションの資産価値の維持ないし保全に資するものであるということができ、したがって、その費用は各区分所有者が一律に負担すべきものである。・・・利用の有無で負担額を決めるためには、インターネット接続業者との契約内容に関わらず、インターネット設備の保守、管理費用と、接続そのものに要する費用を分けて各戸が負担すべき費用を算出しなければならないという問題も生じてくる。そうすると、このようなコストや種々の問題の発生(その処理のために発生する費用は、各区分所有者の負担となる。)を回避するという意味では、本件インターネットサービスの利用の有無を問わず、インターネット利用料金を一律に徴収する旨を定めることには一定の合理性があるといえる。・・・これらの事情を総合すれば、本件インターネットサービスの利用の有無を考慮することなく一律にインターネット利用料金の支払を負担すべき旨規定している本件管理規約26条1項2号及び附則10条4号は、建物の区分所有等に関する法律30条3項の趣旨に照らしてみても、区分所有者間の利害の衡平が図られていない故に無効であるとまではいえない。」

23.建築中のマンションの作業員の死亡事故
  • 新築マンションを購入しましたが、建築中のエレベーターシャフト内で作業員の死亡事故があったことがわかりました。高級感ある性能、品質を有するものを引き渡すという売主の義務について債務不履行があると思いますので、契約解除したいのですが、認められますか。
  • 債務が不完全履行である場合、不完全な部分の追完が、物理的又は社会通念上もはや追完不可能となったかどうかが問われます。
    東京地判平23・5・25は、類似の事案につき次の通り判示しました。
判決内容

「マンションの区分所有部分の引渡債務においては、物理的には引渡が可能であるが、社会通念上、買主が当該部分を買い受けた目的を達せられないほどの瑕疵がある場合(例えば、居住を目的として当該部分を買い受けた場合において、当該部分で凄惨な殺人事件が起こったなど、社会通念上、忌むべき事情があり、一般人にとっても住み心地の良さに重大な影響を与えるような場合のように重大な心理的な瑕疵がある場合など。)も含むと解され、単に買主が主観的に不快感等を有するためにそのような目的が達せられないというものではこのような瑕疵があるとはいえない。・・・事故は、人の死亡という結果は生じているものの、飽くまで建設工事中の事故であって、殺人事件などと同視でいないものである上、Xの専用部分となるべき建物内で発生したものではなく、建物から相当程度離れたフロアの、共有部分で発生したものであること、事故の直後にはニュース等で報道され、現在でもインターネット上で事故の情報を取得することができることが推認されるが、全証拠及び弁論の全趣旨によっても、それ以上に事故に関し建物やマンションの住み心地の良さに重大な影響を与えるような情報やそれらの価値を貶めるような情報が流布しているなどといった事実も認められないことに照らせば、建物に、社会通念に照らし、上記のような瑕疵が存在すると認めるに足りない。」

結局、売主の債務不履行は否定されました。

24.管理規約と違約金としての弁護士費用
  • マンションの管理規約において、国土交通省作成のマンション標準管理規約に従い、「区分所有者が管理組合に支払うべき費用を所定の支払期日までに支払わないときは、管理組合は当該区分所有者に対し、違約金として弁護士費用を加算して請求することができる。」との定めをしております。
    滞納者から、違反者に過度の負担を強いるものであり不合理だとの主張がなされました。
    規約の効力に問題があるのでしょうか。
  • 多くのマンションが採用している国土交通省の標準管理規約にある、違約金としての弁護士費用の定めが合理的なものか否か、弁護士費用の範囲はどのように解釈したらよいのかが問題となります。
    東京高裁平26・4・16判決は、次の通り判示しています。
判決内容

「違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、それにより支払われるものである。債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払う義務を負う一切の費用と解される。」

25.暴力団事務所使用と区分所有権競売請求
  • マンション所有者が暴力団組長であり、部屋を暴力団事務所として使用していましたので、区分所有権の競売請求を行いました。途中で暴力団事務所は退去し、口頭弁論終結時には空室となっております。競売請求は認められないのでしょうか。
  • 区分所有法59条1項による競売請求が認められるためには、区分所有者が共同利益背反行為をし、またはその行為をするおそれがあること、その行為による区分所有者の共同生活の障害が著しいこと、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であることが必要であり、これらの要件は、口頭弁論終結時まで存在することが必要とされています。
    東京地判平25・1・23は、次の通り判示しています。
判決内容

「被告が、平成22年4月ころから同年11月末ころまでの間、本件専有部分をA組に組事務所として使用させたことは、区分所有法6条1項に規定する「その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当するものであるということができる。・・・・しかしながら、区分所有法59条に基づく競売請求が認められるためには、同条に定める要件、すなわち、共同利益背反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいことが、口頭弁論終結時において認められる必要があるところ、本件専有部分は、平成23年1月末ころA組が組事務所としての使用を止めており、その後は、本件口頭弁論終結時に至るまでの間、空室であって、暴力団構成員の出入り等により暴力団の活動が行われていた形跡はなく、本件口頭弁論終結時において、被告の共同利益背反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいとまで認めるに足る事情はないといわざるを得ない。」

結局、競売請求は認められませんでした。

26.マンション管理者の理事長の権限外の行為
  • 当社は、建物の調査診断の業務をマンション管理組合の理事長から受託する契約を締結し、業務を完了しました。ところが、この契約につき集会の決議がなかったので効力がないと主張され、報酬の支払を拒否されています。この主張は正しいのでしょうか。
  • 本件で問題の契約の締結は、共用部分の管理に関する事項であり、区分所有法18条1項により集会の決議が必要です。決議を欠く場合、一般法人法77条4項、5項の類推適用や民法110条の適用により、受託業者を救済することが可能か否かが問題となります。
    類似の事案につき、東京地判平27・7・8は次の通り判示しました。
判決内容
「本件契約は、本件マンションお原状を調査して報告書にまとめ、それをもとに改修工事の設計を行い、施工会社の選定を行い設計監理を行うとの内容であるから、同契約の締結は、共用部分の管理に係る事項に該当するものと認められ、区分所有法18条1項により、集会の決議が必要である。ところが、本件各証拠によれば、本件契約の締結に際して、集会の決議は行われていないと認められることから、被告が、一般法人法等により本件契約に基づく報酬支払義務を負うか否かが問題となる。・・・一般法人法77条4項は、代表理事に包括的代理権を付与し、同条5項は、前項の権限に加えた制限について、善意の第三者を保護している。他方、第2,2(1)ウのとおり、被告の理事長は、本件マンションの管理規約第39条2項において、区分所有法における管理者とされているところ、同法によれば、共用部分は、区分所有者全員の共有に属し(区分所有法11条1項)、管理者は、共用部分等の保存、集会決議の実行、規約で定められた行為をする権利を有し、その職務に関して区分所有者を代理する権限を有しているにすぎず・・・、管理者の上記代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができないと規定されている(同法同条3項)。そうすると、区分所有法上の管理者である理事長は、そもそも、被告の包括的代理権を有しているものではなく、集会の決議なく本件契約を締結する権限を有しているものではないから、一般法人法第77条5項により、被告が本件契約に基づく報酬金支払義務を負うということはできない。」 そのうえで民法110条の適用に関しては、「原告らは、マンション等の建物に関し、調査診断業務等を行うことを業としている会社であるし、原告らは、Aに虚偽の事実を伝えられたものではなく、そもそもその権限について確認を行っていないのであるから、Aが権限を欠いていることを知らなかったことについて、過失があるという他ない。」と判示し、受託業者の主張を否定しました。
27.事業用物件の管理費を倍額とする規約の効力
  • マンションの管理組合の規約において、区分所有者が所有する住居部分を事業用に使用した場合、その区分所有者に対し管理費の増額を理事会の決議により請求できると定めており、事業用物件の管理費を通常の2倍とする旨の理事会決定がされています。このような取扱いをすることは認められるのでしょうか。
  • 区分所有法30条3項は、建物又はその敷地若しくは付属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めるに当たっては、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない旨を規定しており、上記要件が充たされていない場合には規約の当該部分は無効になることになる。
    事業用物件の管理費を通常の倍額とする規定の効力につき、東京地判平27・12・17は次の通り判示している。
判決内容

「本件倍額規定は、当該居室の使用目的が居住用であるか事業用であるかによって管理費額に差を設けるものであるところ、営利目的の事業用物件については当該居室からの収益が想定されるものの、このことから管理費の負担能力の高さまでが当然に基礎付けられるものとは認められない。・・・本件各居室の利用状況は認定事実(3)の通りであり・・・これが共用部分の使用頻度の観点から通常の居住用物件と大きく異なるものであるとは考え難い。・・・原告は、本件倍額規定が存在しなければ赤字となり健全な運営ができなくなる旨も主張するが、仮にそのような状況にあったとしても、その解消は支出状況の改善又は居住用物件所有者らの負担割合との調整等によって実現されるべきものであり、・・・合理的な根拠があるとは認められない本件倍額規定の存在を許容すべき理由となるものではない。

28.事業用物件の管理費を倍額とする規約の効力
  • マンションの自治会役員選挙にあたり、候補者が20年前に別のマンション管理組合理事長をしていた際に、3億6千万円もの組合費を業務上横領して服役した事実が判明しました。選挙の投票は終わり開票前なのですが、候補者は犯罪歴からみて不適格であり選挙の無効を求める嘆願書を作って署名を集めたいと思います。候補者に対する名誉毀損の不法行為にあたるでしょうか。
  • 名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係りもっぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて不法行為にならないと解されています(最判昭41・6・23)。 設問類似の事案につき、静岡地裁沼津支部平28・9・29は、次の通り判示しました。
判決内容

「被告Aらが本件マンションの居住者らに対し、原告Bに業務上横領罪の前科があることを伝えたことは、原告Bの社会的評価を低下させる行為であるというべきである。しかしそのような場合であっても、当該行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であると証明されたとき、又は真実の証明がなくても行為者において真実と信ずるにつき相当の理由があるときには、違法性が阻却されるものと解される。・・・原告Bの前科内容が、マンションの理事長時代の約3億6千万円にものぼる組合費の業務上横領罪であったことを考慮すると、C会の役員選挙において多くの得票を集めるであろうことが予想されている原告Bに上記のような前科があるという事実は、本件マンション内の役員選挙という限られた社会の中では、公共の利害に関する事実に該当するものというべきである。・・・本件における被告Aらの行為は、違法性が阻却されると認められるから、原告に対する不法行為を構成しないものというべきである。」

29.マンション管理保管書類の閲覧請求
  • マンションの区分所有者ですが、管理組合に対し、管理業務について保管している文書(総会議事録、理事会議事録、会計帳簿)の閲覧と写真撮影を求めたのですが、規約に明文の定めがないとして拒否されました。認められないのでしょうか。
  • 適正な管理業務が行われていないマンションが増えており、管理組合からの情報開示の重要性が増しております。 近時、大阪高判平28・12・9は、情報開示のあり方について積極的に評価する判断を示しました。
判決内容

「管理組合と組合員との間の法律関係が準委任の実質を有することに加え、マンション管理適正化指針が管理組合の運営の透明化を求めていること、一般法人法が法人の社員に対する広範な情報開示義務を定めていることを視野に入れるならば、管理組合と組合員との間の法律関係には、これを排除すべき特段の理由のない限り、民法645条の規定が類推適用されると解するのが相当である。したがって、管理組合は、個々の組合員からの求めがあれば、その者に対する当該マンション管理業務の遂行状況に関する報告義務の履行として、業務時間内において、その保管する総会議事録、理事会議事録、会計帳簿及び裏付資料並びに什器備品台帳を、その保管場所又は適切な場所において、閲覧に供する義務を負う。次に、民法645条の報告義務の履行として、謄写又は写しの交付をどの範囲で認めることができるかについて問題となるところであるが、少なくとも、閲覧対象文書を閲覧するに当たり、閲覧を求めた組合員が閲覧対象文書の写真撮影を行うことに特段の支障があるとは考えられず、管理組合は、上記報告義務の履行として、写真撮影を許容する義務を負うと解される。」マンション管理に関する重要判例であり、大きな影響を及ぼすものと思われます。

30.マンション修繕積立金の取り崩しと配分基準
  • マンションの修繕積立金の一部を、総会の特別決議により取り崩すことができるとの規約に基づき、今般総会で取り崩しが決まり、その配分につき専有部分の床面積ではなく居住年数に応じて配分することが決められました。この様な決議は有効でしょうか。
  • マンションの修繕積立金を取り崩し、これを専用部分の床面積の割合ではなく、居住期間に応じて区分所有者に配分する旨の特別決議が、公序良俗に違反し無効となるかが問題です。 近時、福岡地裁小倉支部平28・1・18は、次の通り判示しました。
判決内容

「このように修繕積立金は、飽くまで各区分所有者に対する負担であり、単なる居住者・・・に対する負担ではないことからすれば、修繕積立金の負担は、区分所有権及びこれを有する各区分所有者の共有部分等に対する共有持分に根ざすものであり、本質的に区分所有権と分離して考えることができない性質のものであると解される・・・本件規約の定めに基づき修繕積立金を取り崩して区分所有者に配分すること自体が可能であるとしても、各区分所有者への返金に伴う配分方法は、規約に別段の定めがある場合を除いて、専有部分の床面積の割合(共有部分等に対する共有持分)に応じて行うことが区分所有者間の利害の衡平に資するものであり、これに反する配分方法は、特段の事情のない限り、区分所有者間の利害の衡平を著しく害するものであって、公序良俗に違反するものというべきであり、集会(総会)の特別決議によってもこれを有効とすることはできないというべきである。」 マンション修繕積立金の取り崩しに関する一事例とて重要な判例といえるでしょう。

31.マンションの理事長の解職
  • マンションの規約で、理事を組合員のなかから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任することになっておりますが、今般、理事長の不正が発覚し、理事の過半数の一致により理事長の職を解く決議をしました。理事長は、役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならないとの定めがある以上、理事会決議は無効だと主張していますが、正しいのでしょうか。
  • 多くのマンションが標準管理規約を用いており、理事長を建物の区分所有等に関する法律に定める管理者とし、役員である理事に理事長を含むものとした上、役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならないとする一方で、理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する旨の定めが設けられています。そこで、理事長職の解任が理事会決議でできるのか、総会決議が必要なのかの問題が生じます。近時、最判平29・12・18はこの点につき次の通り判示しました。
判決内容

「本件規約は、理事長を区分所有法に定める管理者とし(43条2項)、役員である理事に理事長等を含むものとした上(40条1項)、役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならない(53条13号)とする一方で、理事は、組合員のうちから総会で選任し(40条2項)、その互選により理事長を選任する(同条3項)としている。これは、理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上、総会で選任された理事に対し、原則として、その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。そうすると、このような定めは、理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。」

32.マンション底地の一部の売却と不法行為
  • マンション底地の賃貸人ですが、建築確認の際、敷地の一部とされた隣地部分を第三者に売却したいのですが、マンション区分所有者に対する不法行為になると指摘されました。なぜかわかりません。
  • マンション建築にあたり、建築確認の際に敷地の一部とされた隣地部分(更地)を他に売却し、マンション区分所有者と賃貸人間でトラブルとなるケースがありますが、賃貸人は区分所有者に対し、いかなる義務を負っているのかが問題となります。近時、東京地判平29・4・28は次の通り判示しました。
判決内容

「被告A社が、本件底地の賃貸人として、信義則上、原告を含む本件マンションの区分所有者に対し、同区分所有者らが本件各土地を建築基準法上の敷地として利用することに協力すべき義務を負っていたことは前記のとおりであるところ、同被告は、遅くとも平成26年1月21日には、杉並区の説明により本件各土地が本件マンションの建築基準法上の敷地であることを認識したのであるから、前記義務の一環として、本件各土地を売却する場合には、区分所有者らに対し、これにより本件マンションが建築基準法上違法になることを説明し、区分所有者らにおいてかかる事態を避けるべき手段を講ずる機会を与えるなどして、本件マンションを法に適合させるべく誠実に協力すべき信義則上の義務を負っていたというべきである。・・・被告A社が第2売買契約により本件各土地を被告C社に売却したこと自体が原告に対する不法行為に該当するとはいえないが、上記売却に際し、管理組合に対し対応を検討する十分な機会を与えるなどして、本件マンションを法に適合させるべく誠実に協力すべき義務を怠ったことについては、借地契約に付随する信義則上の義務に違反するものとして、不法行為が成立するというべきである。」そのうえで、慰謝料30万円と弁護士費用3万円の支払を命じました。

33.マンションの大規模修繕と理事長の善管注意義務
  • マンション管理組合の理事長をしておりますが、今般大規模修繕工事を理事会、総会の決議を経て実施しました。このようなケースでも理事長の善管注意義務違反が問題となりうると聞いたのですが、本当でしょうか。
  • 管理組合の役員は管理組合との間で委任契約が成立しており、役員は管理組合に対し善管注意義務を負っております。大規模修繕に関し、総会決議等が行われ、理事長の職務遂行が同決議等に基づくものであったとしても、理事長の善管注意義務違反が認められることがあるのでしょうか。近時、東京高判令1.11.20は理事長の責任を認める判決を下しました。
判決内容

「理事長は、その職務の遂行に当たり、自己の私的な利益を追求してはならない。私的利益を目的として職務を遂行することは、管理組合に対する善管注意義務違反に当たり、これによって管理組合に生じた損害を賠償する責めに任ずる。当該職務の遂行が総会又は理事会の決議に基づくものであったことは、賠償責任を免れる理由にはならない。私的利益を目的とすることを隠し、総組合員の利益を目的とすることを装って総会又は理事会の決議を得たからといって、善管注意義務の違反があることに変わりはないからである。」そのうえで、理事長の動機が、将来の総組合員の利益を犠牲にしたうえでの自己所有住居の高値転売を図ったものと推認し、より小規模な工事で足りたのに強引に大規模修繕工事を推奨したこと、理事長としての職権遂行の方法は透明性がなく、強引かつ不誠実であることを認定し、「本件大規模工事は、客観的な実施の必要性に乏しいのに、私的利益を図った第1審原告が、第1審被告組合に対して負う善管注意義務に違反して実施したものである。その工事代金全額1627万5000円について、第1審原告は、第1審被告組合に対して、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。」と判示し、そのうえで有用性が肯定される防水工事費を損益相殺を対象とし、さらに大規模修繕工事の実施により将来あるかもしれない修繕工事費用の支出の一部を免れたことなどを考慮して損益相殺を行い、理事長は約715万円の限度で損害賠償責任を負うとしました。老朽化が進んだマンションの大規模修繕工事をめぐるトラブルが増加しており、実務上重要な判例といえるでしょう。

34.広告用に使えないことの説明義務
  • 賃借人をさがしていた分譲マンションの1階部分を水産加工食品を営む会社に仲介したのですが、会社が店舗の入り口上部の雨避けのテントに広告をしようとしたところ、マンション管理規約に反するとのことで実現出来なかったので営業を断念する。共用部分の広告が制約されることにつき説明しなかったので仲介業者に損害賠償を請求するといわれています。契約に際し、会社から、テントに広告を掲示することの希望は伝えられておりません。当社に重要事項説明義務違反による損害賠償責任があるのでしょうか。
  • 不動産の賃貸借契約の仲介業者は、賃借人に対し、賃貸借契約の目的物である建物の共用部分である雨避けテントを広告の用に供することができない旨を説明する義務があるのでしょうか。賃借人から特に照会を受けたという事情がない場合において、どう解すべきかが問題です。近時、東京地判平29.6.22は、次の通り判示しています。
判決内容

「債務不履行責任又は不法行為責任が発生するために必要な説明義務違反は、個別の契約当時者の理解の程度と契約に至る過程において示された要望の内容等に応じて発生する具体的な義務違反であるべきところ、すでに指摘したとおり、原告は、本件建物を賃借する際に被告らに対して本件広告を掲示することを希望する旨を伝えていないほか、本件テントは本件建物及びこれと隣接する本件マンションの区分所有建物とで共用している雨避けであって共用部分に該当し、原告はこれを公告等に使用することについて制約があることを理解していたことからすると、被告会社が、宅地建物取引業者として、賃貸借契約等を締結する際の判断に重要な影響を与える事実を調査し、説明する義務の具体的内容として、原告に対し、本件テントに広告を掲示することができない旨をあらかじめ具体的に伝えるべき義務が生じていたとまでいうことはできない。」結局、仲介業者の損害賠償責任は否定されました。

35.マンション建設反対の垂れ幕と名誉毀損
  • マンションを新築しようとしている建設業者ですが、隣接するマンションの外面に横断幕や垂れ幕が掲示され「想いを壊し。心を潰す。」「地域住民の不安をあおります。」「東側ベランダを圧迫、日照、プライバシーを侵害。」といった表現があります。当社の名誉を毀損しており、損害賠償を請求したいのですが、認められますか。
  • 名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価をいい、法人もその保護の対象となります。事実摘示型の名誉毀損についての成立阻却の要件として、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、前記行為には違法性がなく、仮に前記証明がないときにも、行為者において前記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されます。
    類似の事案について、大阪高判令2・9・10は次の通り判示しました。
判決内容

「本件横断幕の「想いを壊し。心を潰す。」との記載は、控訴人Aのキャッチフレーズをもじったものであるところ、原判決を補正の上で引用して説示したとおり、これは、控訴人らの行為によって被控訴人マンションの住民の心情が害されているとの意見を表明したものと認められるのであって、控訴人Aを誹謗中傷することを主たる目的とするものと認めることはできず、この点の控訴人らの主張は採用することができない・・・本件横断幕及び本件垂れ幕には、明らかに虚偽と分かる事実が摘示されているとは認め難いし、社会的相当性を逸脱するといえるまでの表現行為は用いられておらず、本件各行為は公益目的によりされたものではないとする控訴人らの主張は採用できない。また、本件各行為が報復目的でされたと認めるに足りる証拠はない。」
結局、建設業者の損害賠償請求を棄却した一審判決(大阪地判令2・2・28)の判断が維持されました。